Fiddler
in the
Twilight
- tells the hour
夕刻のヴァイオリン弾き
概要
自身を再生装置としたサウンドインスタレーション。
一日に数分、時報という形をとることで通常音楽公演が叶わないような環境においても生演奏を実現させる。
一定の期間、毎日決まった条件下で行うことでインスタレーション化させ、その環境に変化をもたらす現象として機能する。
音楽家本人がすることはとてもシンプルである。
18時ちょうどに窓を開け、5分間演奏して窓を閉める。
演奏は即興に始まり、初年に生まれた「三角長屋の時報曲」を必ず歌う。
これを一ヶ月間変わらずに繰り返すのみである。
演奏する際の決め事は3つ。
「18時きっかりに窓を開けること」
「着替えること」
「窓辺では喋らないこと」
解説
2021年、まちなか芸術祭「すみだ向島EXPO」への出展をきっかけに開始。毎日の終了時刻である18時を告げるヴァイオリンの生演奏時報として古民家(通称:三角長屋)の二階窓辺から行った。
「三角長屋」とは長屋としては珍しい一軒一軒が独立した三角形の屋根を持つことから名づけられており、音楽家本人がリノベーションして運営するカフェ「サテライトキッチン」がある。
木造密集地域ということもあり音楽イベントは難しい場所と考えられていたが、「時報」という形をとることで、鑑賞者と周辺住民の両方に意味を持つ短時間演奏を街と共存させることに成功している。
時報というアイディアは同年に宮城県の遠刈田における滞在製作中に聞いた“誰も見ていなくても毎朝6時に鳴らされる神社の太鼓の音”にヒントを得ており、また滞在制作という初めての体験に「自分がいることで地域にどんな影響があるか」をよく考えたことが影響している。今作においても音楽家本人は「誰も見ていなくても意味がある」と考えている。
当時はコロナの流行による感染拡大防止のため音楽公演の現場は著しく少なく、音楽家にとっても鑑賞者にとっても生演奏は少し遠くなっていた背景がある。
定義となる「自身を再生装置としたサウンドインスタレーション」は、兼ねてより模索していた作品スタイルである。展示空間に行けば何時でも必ず体験できる従来のサウンドインスタレーションとは異なり、一定の条件下で毎日繰り返すことで音楽家本人の生演奏をインスタレーション化させており、演奏が行われること自体に必然性を見出している。
また、日々の現象として機能するために、芸術祭の開催日定休日や天候に関わらず期間中は毎日必ず行われる。
演奏は、環境に変化をもたらしていく。
鑑賞者はたった5分のために路地へ集まり窓辺を見上げ、演奏が終わると各々の日常へと戻っていく。
18時が近づくにつれざわめく街、一ヶ月の間に地域へ浸透して増えていく鑑賞者、曲を覚えて一緒に歌う子どもたち、通行人と共存するために子どもたちが路地に描く"とおりみち"、住民と鑑賞者とアーティストの皆等しく過ごす時間、その光景作りまでも含めた作品と考えている。そして、家の中で聴く人、今日も18時をしらせるヴァイオリン弾きがいると想像させること、などその場では見えないところまで拡大されていく。
出展
(2024)
(2023)
(2022)
(2021)
メディア情報
- NHK WORLD「TOKYO EYE 2020」
- フジテレビ「国分太一のお気楽散歩」
- 公共R不動産「下町の路地が客席となる、寛容的な日常の風景」
photo FUKUSHIMA NAOKI